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【医師解説】自彊術(じきょうじゅつ)の驚きの健康作用!ダイエットや関節痛、難病対策に
100年以上前に誕生して、現代まで継承されてきた元祖健康体操「自彊術」。自彊術がいかにいいかについては、一番下の関連記事をご覧ください。
しかし、100年以上脈々と受け継がれてきた体操ですが、現代医学の観点からすると、その作用はどのように捉えられるのでしょうか。この記事で考察してみました。
体に不調がある方は、専門医の治療を受けることが最も重要です。その上で自彊術を実践してみてください。
自彊術を行った96%の人は体調不良が改善
自彊術の健康作用は、1985年に開催された北京国際運動医学学術会議で研究論文が発表されています。この論文に掲載された調査では、自彊術を行っている1000人にアンケートを依頼し、800人(男性119人、女性681人)から回答を得ました。
病状への作用について聞いたアンケートでは、「大変よくなった」と回答した人が529人(66%)、「ややよくなった」が242人(30%)、「全く作用がなかった」が6人(0.8%)、「悪化した」が1人(0.1%)となり、96%の人が病状の改善を認めていたそうです。
このうち30%は、医師の診断によって病状の改善を報告されているので、アンケートの信頼性は高いといえるのではないでしょうか。
また、「大変よくなった」と回答した人に聞いたところ、数多くの慢性疾患の改善が見られたそうです。狭心症に悩んでいた人の79%、腰痛に悩んでいた人の76%、頭痛に悩んでいた人の76%に改善が見られたというのです。
それ以外にも、胃腸炎や便秘、高血圧、自律神経失調症、ひざ関節症、肝臓炎、胆石、糖尿病なども改善した人がいました。これは、もちろん個人の感想であり、誰もがよくなるということではありません。
あくまでもセルフケアの一環として実施した人の意見ということでお考えください。
慢性疾患への作用(狭心症、腰痛、高血圧など)
整形外科医が語る、自彊術の健康作用
上山田病院の整形外科医である吉松俊一先生は、自彊術について次のように話します。
「自彊術を生活の中に取り入れることで、さまざまな内臓疾患や関節痛、神経症、アレルギー症状などがよくなったというのは、皮膚をもんだり叩いたりする動作が関係していると私は考えています。
少し専門的な話になりますが、皮膚には、ランゲルハンス細胞やケラチノサイトという細胞が存在します。ランゲルハンス細胞は、細菌などの異物が侵入すると白血球にその情報を伝える働きがあり、白血球は異物を攻撃して体を病気から守ります。
また、ケラチノサイトには、サイトカイン(生理活性物質)というたんぱく質を作り出し、白血球の働きを活発にする性質が備わっているのです。つまり、自彊術の動作によって皮膚が刺激を受けると、ランゲルハンス細胞やケラチノサイトなどが活性化し、免疫力(病気から体を守る力)を高めると推測されます。
さらに、自彊術は呼吸を整えながら体を動かすため、姿勢の保持に関係する深部筋肉も鍛えられます。60%以上が腰痛やひざ痛、肩こりの改善を実感した主な理由として、深部筋肉をはじめとする筋力アップ作用があげられるでしょう。 さらに、筋力アップができればダイエットにも役立つはずです。
高血圧や自律神経失調症の改善が70%以上を占めている点も注目に値します。
自彊術は鼻呼吸と発声をセットにしながら行うので、これが心身をリラックスさせて自律神経(意志とは無関係に血管や内臓の働きを支配する神経)を整えるのに役立った可能性があります」(吉松先生)
自彊術は健康寿命を延ばすのにも作用がある
最近、よく耳にする「健康寿命」というキーワード。
健康寿命とは、介護不要の健康的な生活が送れる期間のことで、2013年の時点で男性が71・19歳、女性が74・21歳と報告されています。ちなみに、厚生労働省の調査によれば、2015年の日本人の「平均寿命」は、男性が80・79歳、女性が87・05歳と報告されているので、平均寿命と健康寿命の差は男性で9年以上、女性で12年以上の開きがあることになります。
この差は以前よりも広がっており、要介護期間は日本が世界1位です。
健康寿命と平均寿命の差
健康寿命を延ばすには、医療機関を受診し病気や不調を改善させるといったことが重要ですが、運動習慣を持つことも大切です。その運動習慣としても、自彊術がおすすめの点であると吉松先生はいいます。
「自彊術は体に無理な負担をかけず、全身の筋肉や関節をほぐしたり、血流を促したりする作用があると考えられます。こうした働きで運動機能が高まれば、ロコモティブシンドローム(筋肉・骨・関節などが衰え、日常動作に障害をきたしている状態)や寝たきりのリスクが減るだけでなく、自然治癒力の向上に伴い、さまざまな病気の予防にも役立つと考えられます。
また、自彊術は運動であることから心身のストレスを和らげるのにもおすすめ。
高齢者にも取り組みやすい運動療法として、自彊術は実践する価値があると私は考えています」(吉松先生)
自彊術の指導者は95歳でも30代の血管年齢だった
自彊術の健康作用を自身の体で証明したのが、自彊術の伝道者(指導者)の久家恒衛(くげ・つねえ)氏です。久家氏は、1975年に95歳で大往生するまで、非常に良好な健康状態を維持していましたが、実は35歳で肺炎や結核を患っています。
久家氏は虚弱体質に陥ったことをきっかけに自彊術を始めたところ、短期間で壮健な体質に変わったのです。以来、久家氏は60年にわたって自彊術を日々実践しました。
久家氏の病理解剖は、東京大学医学部で行われました。その解剖所見では、95歳とは思えないほど内臓や筋肉が若々しく、特に血管は30代の柔軟性を保っていたと記録されています。
通常、高齢者の動脈はカルシウムが内壁につまり、切開しようとするとメスが傷むほどジャリジャリしています。一方、久家氏の血管は弾力性に富み、その内壁にはカルシウムが付着せず、動脈硬化も進行していませんでした。
動脈硬化の進行度と内臓の疲労度はほぼ比例します。久家氏の各臓器は目視によって検査を受け、主な内臓の状態は次のとおりでした。
久家恒衛氏の病理解剖の結果
●心臓…心臓の冠動脈に動脈硬化は認められず、心臓弁にも異常は認められなかった。
●脳…久家氏の脳の重量は1400グラム。80歳を過ぎると平均1200グラム程度まで軽くなるので、ほとんどしなかったと推測される。実際に、生涯を通じて認知機能は高いレベルで保たれていた。
●胃腸…胃ガンの手術の跡と思われる傷があったが、完治していた。腸には病変なし。
●内分泌腺…脳下垂体(脳の下部にある内分泌腺の中枢)、副腎(左右の腎臓の上にある内分泌器官)は50代とほぼ同レベルで、機能も維持されていた。
こうした久家氏の病理解剖の結果は、自彊術を実践することが血管や臓器の老化を食い止めるのに大変役立ったのではないかと示唆されます。
自彊術のような全身をくまなく刺激できる運動は、大変おすすめです。病気や不調については、専門医の治療を受けつつ日々の生活の中で自彊術を取り入れてみてください。
記事にあるセルフケア情報は安全性に配慮していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して医師にご相談ください。また、効果効能を保証するものではありません。
写真/©自彊術普及会 © Fotolia ©カラダネ
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