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慢性腎臓病(CKD)の原因|糖尿病・高血圧は要注意、メタボも危険と専門医が警鐘
川村哲也
慢性腎臓病は、さまざまな原因で慢性的に腎機能が低下していく腎臓病の総称です。
2002年に米国国立腎臓財団によって新しく提唱され、英語名「Chronic Kidney Disease」の頭文字を取って「CKD」とも呼ばれます。
2017年現在、日本国内の慢性腎臓病の推定患者数は1330万人。予備群も含めると、その数は2000万人近くに上るともいわれています。腎臓病は一部の人だけが発症する病気ではなくなってきているのです。
慢性腎臓病の概要や発症の原因について、東京慈恵会医科大学教授の川村哲也先生に話をお聞きしました。
慢性腎臓病の疑いがある方は、腎臓内科などで専門医の治療を受けることを忘れないでください。
腎臓は血液の新生や骨の形成にかかわる重要臓器
腎臓は大人の握りこぶし程度の大きさのソラマメの形をした臓器で、ヘソより少し上のあたりに背骨を挟むようにして背中側に左右に一つずつあります。
腎臓の構造
腎臓の内部は、大きく「腎皮質」と「腎髄質(じんずいしつ)」に分かれ、中心には「腎盂(じんう)」があります。腎皮質の中には毛細血管がめぐり、「ネフロン」がつまっています。
ネフロンの構造
ネフロンは腎臓を構成する基本単位。毛細血管を糸玉のように丸めた「糸球体」と、それを包む袋の「ボーマン嚢(のう)」、そして「尿細管」という管の3つからなり、1つの腎臓に約100万個あります。
ネフロンは、腎臓の最大の役割ともいえる尿の生成を行います。具体的には、糸球体とボーマン囊(2つをまとめて「腎小体」という)で腎臓に送り込まれた血液をろ過して老廃物をこし取り、尿が作られます。できた尿は尿細管から腎盂を通り、尿管を通じて膀胱へ送られます。
腎臓は血液を浄化して尿を作るほかにも、次のような働きを担っています。
●体内水分量を調節する
●血液中のナトリウムやカルシウム、カリウムなど電解質を調節する
●血液を弱アルカリ性に保つ
●赤血球を作る働きを促すホルモンのエリスロポエチンを分泌する
●カルシウムの吸収促進や骨への沈着を促す活性型ビタミンDを作る
腎臓は気づかぬうちに衰えるため、慢性腎臓病予備軍が多い
慢性腎臓病は、加齢とともに患者数の割合が上がります。日本腎臓学会の調査では中程度といえるステージG3以上の慢性腎臓病の患者さんの割合は、70代で約3割、80代で4割以上に達するとわかりました。
これは、慢性腎臓病が高齢者だけの問題である、ということを示すわけではありません。自覚症状が乏しく、本人の知らぬまに進行して、気づいたときにはかなり腎機能が衰えていることも珍しくない慢性腎臓病は、隠れ腎臓病ともいえます。
要するに、50代60代と比較的若い世代の人にとっても人ごとではなく、その中にも慢性腎臓病予備群が多く潜んでいます。
加齢とともに増える慢性腎臓病(CKD)の推移
慢性腎臓病の原因は多岐にわたりますが、代表的なものを3つ紹介します。
糖尿病性腎症
糖尿病の合併症の一つで、慢性的な高血糖によって腎臓の血管が障害され、たんぱく尿が検出されます。人工透析患者数の増加の最大原因。
IgA腎症
IgAという免疫グロブリン(免疫機能を担うたんぱく質)が糸球体の中に沈着し、ろ過機能が低下します。血尿やたんぱく尿、血圧の上昇が見られます。
腎硬化症
高血圧や老化によって腎臓の血管が硬くなり、腎臓への血流が減少して腎機能が低下します。たんぱく尿や頭痛、視力障害などが起こります。
言葉のとおり、尿の中にたんぱく質が含まれていること。
たんぱく質は私たちの体を作り、生命維持にかかわるとても大切な栄養素。
本来、尿とともに排出されるべきものではないのですが、腎臓の働きが低下すると漏れてしまうのです。腎機能の低下を示す重要な指標となります。
高血糖や高血圧を放置して、慢性腎臓病を発症する人が急増中
慢性腎臓病の発症には、さまざまな危険因子が関係していることがわかっています。慢性腎臓病の危険因子には、加齢、先天的な腎臓の異常、慢性腎臓病の家族歴、尿路結石、尿路感染症、過去の健診などでの尿異常の有無、喫煙などが考えられます。
特に注意しなければならないのは、高血圧や高血糖です。これらは慢性腎臓病の発症にかかわるだけでなく、悪化にもつながる重大な危険因子となります。
血圧が高い状態が続くと、毛細血管の塊である糸球体が障害されて、ろ過機能に異常が起こり、たんぱく尿が出やすくなります。また、腎臓の毛細血管に高い血圧による強い負荷がかかり、腎硬化症などの腎臓病の発症・進行を招きます。
血糖値が高いと、やはり糸球体や腎臓の血管が障害されて、もろくなります。血糖値のコントロールがうまくいっていない人ほど腎臓が障害される危険が高まり、将来、糖尿病性腎症を引き起こすことになります。
メタボになると慢性腎臓病の発症率が上昇⁉︎
慢性腎臓病の発症率とメタボとの関係
九州大学大学院が行う大規模疫学調査の久山町研究では、高血圧・高血糖・脂質異常に内臓脂肪型肥満が加わった「メタボ(代謝症候群)」の人では、慢性腎臓病を発症しやすく、メタボを構成する危険因子が多ければ多いほど慢性腎臓病の発症率が上がることが確認されています(上の図を参照)。
こうしたことから、今は腎機能や尿に異常が認められないけれども、高血圧や高血糖などの危険因子がある人は、慢性腎臓病に陥る危険が高い「ハイリスク群」とされます。
ハイリスク群の人では、定期的な尿検査を受けるとともに、高血圧や高血糖の原因となる食べすぎや糖質・塩分過多、運動不足など生活習慣の乱れを正す必要があります。当然ながら、日常的に血圧を自己測定したり、病医院の検査で血糖値の変化を調べたりするのも重要です。
対策なしに、腎機能が自然に改善することはない
慢性腎臓病の自覚症状には、尿の異常や顔・手・足のむくみ、倦怠感、貧血、息切れ、夜間頻尿などがあげられます。ただ、ある程度まで病状が進行しないと気づきにくく、知らぬまに病気が悪化していることは多いのです。
慢性的な経過をたどって衰えた腎機能は自然に改善することはありません。適切な治療を受けずに放置していると、腎機能はどんどんと低下します。最終的には、末期の腎不全に陥り、人工透析や腎移植が必要になります。また、慢性腎臓病の重症度が上がるにつれて、心筋梗塞や心不全、脳卒中といった心血管疾患の発症率と、それによる死亡率が高まることもわかっています。慢性腎臓病の悪化で、心血管疾患の発症リスクが上昇
米国の調査では、腎機能を示す数値の一つである「糸球体ろ過量(GFR)」が低く、病状が悪化している人では、心血管疾患の発症リスクが最大で3.4倍上昇することが示されました(上の図を参照)。
また、前述の久山町研究においても同様の結果が確認されています。12年間の心血管疾患の累積発症率を慢性腎臓病の有無で比較すると、慢性腎臓病を患う人ではそうでない人に比べて発症率が約3倍に達することがわかったのです。
人工透析を避けるのはもちろん、心臓病や脳卒中やそれによる突然死を防ぐためにも、慢性腎臓病への早期対策が不可欠になります。
この記事は、医療や健康についての知識を得るためのもので、特定の見解を無理に推奨したり、物品や成分の効果効能を保証したりするものではありません。
写真/©Fotolia ©カラダネ
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