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【IgA腎症の最新治療】喉の炎症を鎮めるダブル治療で症状が劇的に回復
堀田修
かつて、IgA腎症は不治の病といわれていました。しかし今では、症状の大幅な改善が望めるようになり、早期なら寛解も可能になってきています。
その治療法の核となるのが「扁摘パルス療法(扁桃摘出・ステロイドパルス療法)」と「上咽頭擦過治療 (Epipharyngeal abrasive therapy=EAT)」です。2つの治療法について、堀田修クリニック院長の堀田修先生にくわしく話をお聞きしました。
扁摘パルス療法|ステロイド薬の大量点滴注入
扁摘パルス療法(扁桃摘出・ステロイドパルス療法)は、感染によって炎症を起こしている扁桃を切除して、さらに炎症を抑える作用のあるステロイドホルモン剤を点滴することで、腎臓の炎症を抑えるというものです。ステロイドパルスとは、ステロイド薬を集中的かつ大量に点滴注入する治療法のことを意味しています。
実際の治療となると、扁桃を切除して1週間後にステロイド薬を点滴で3日間投与します。このパルス療法を3週間くり返したのち、経口のステロイド薬を用いて徐々に減らしていきます。
発症3年以内なら扁摘パルス療法で約8割が寛解
実のところ、IgA腎症に対するステロイド薬による治療は早くから行われていました。しかし、その治療成績は、決していいものではなかったのです。
私は長年、腎臓内科医としてIgA腎症の患者さんの治療に携わってきました。その中で、多くのIgA腎症の患者さんの扁桃に、ごく小さな白い膿の塊(膿栓。いわゆる臭い玉)がついていることに気づいたのです。
そこで、扁桃で起こっている炎症が原因となって腎臓の糸球体に炎症を起こしているのではないかと推測し、研究を続けました、そして1988年に、扁摘パルス療法によってIgA腎症を治すことに成功したのです。その後、私は約3000例にこの治療を行いました。
その結果を見ると、発症3年以内の早期に治療を行えば、患者さんの80%以上が寛解しています。具体的には、血尿とたんぱく尿が消えて病気をコントロールでき「いずれは透析」という不安から解放されるのです。
残りの2割も寛解に導く!EAT (上咽頭擦過治療)
発症3年以内なら、残りの20%の人も寛解の道はあります。それが、EAT (上咽頭擦過治療)です。EATとは、Epipharyngeal(上咽頭)・abrasive(擦過する)・therapy(治療)の頭文字を取った呼び方です。
上咽頭は、鼻の奥で左右の鼻腔が合流するところで、鼻から入った空気が方向を下に変える場所です。空気が長く留まりやすいという特徴があります。そのため、常にジメジメしていて、取り込まれた空気にまざっているウイルスや細菌に感染しやすい場所でもあります。
また、上咽頭の表面は、繊毛上皮という細胞で覆われており、その細胞からは絶えず粘液が分泌されていて、ホコリや細菌などの外敵を押し流し、痰(たん)として排出する働きを担っています。さらに、上咽頭を綿棒でこすって採取した細胞を顕微鏡で見ると、免疫反応を司るリンパ球が表面に露出し、しかも活性化していることがわかりました。つまり、上咽頭は外敵と戦う態勢を常に持っている、極めて特殊な場所なのです。
慢性上咽頭炎は、上咽頭に慢性的に炎症が起こっている状態です。その炎症が原因で上咽頭から遠く離れた体の部分にも炎症が起こるのです。
EATは「塩化亜鉛」という薬を鼻の穴や喉から綿棒で、直接上咽頭に擦りつけるという簡単な方法で、耳鼻咽喉科では一般的な治療です。塩化亜鉛には収斂作用(たんぱく質を変性させて、組織や血管を縮める作用)があります。これを炎症が起こっている箇所に塗って、炎症を焼いて治すわけです。
炎症が起こっていれば激しく痛み出血が起こります、炎症がなければ、痛みも出血もありません。治療は短期間ですみ、患者さんの体への負担も少なく、たんぱく尿が陰性の早期のIgA腎症であれば、この治療だけで約6割の人の血尿が消えます。
上咽頭の炎症があるのかを【セルフ診断】
上咽頭に炎症があるのかどうかは、自分でもある程度なら診断できる方法があります。これは、感染症の専門医として高名な杉田麟也先生が指導している方法です。
耳の下(専門的には耳下部の胸鎖乳突筋付着部付近)を、人さし指・中指・薬指の3本でやや強めに押すと、上咽頭に炎症があれば、痛みを感じます。炎症がひどいときは、指で押さなくてもこのあたりが痛みます。しつこいのどの痛みやセキがある場合も、慢性上咽頭炎である可能性が高いと考えられます。
もちろん、上咽頭の炎症が疑われる方は、セルフチェックだけでなく、専門医に診てもらうことを忘れないでください。
扁摘パルス療法が受けられる医療機関
扁摘パルス療法は、2014年に標準治療になり、全国の大学病院や総合病院で受けられるようになりました。まずは、お近くの大学病院や総合病院にお電話して聞いてみてください。
EATについては、耳鼻咽喉科では一般的な治療ですが、実施している医療機関はあまり多くありません。かかりつけ医などにEATについての情報を聞いて、お近くの実施機関を検討してみるのも一つの手です。
記事にあるセルフケア情報は安全性に配慮していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して医師にご相談ください。また、効果効能を保証するものではありません。
写真/© Fotolia ©カラダネ
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