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糖尿病腎症とは?予防法と最新治療を解説|透析の最大原因って本当?

解説 AGE牧田クリニック院長
牧田善二

厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」の2014年版によると、糖尿病の総患者数はなんと316万6000人。また、専門家の中には、予備軍を含めると1500万人の潜在的な患者がいるという人もいます。

もはや国民病ともいえる「糖尿病」ですが、実は危険な合併症が3つあります。糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、そしてもう一つが今回取り上げる「糖尿病腎症」です。糖尿病患者の30〜40%は糖尿病腎症という意見もあります。一体どんな病気なのでしょうか、AGE牧田クリニック院長の牧田善二先生に話をお聞きしました。

糖尿病腎症とは

慢性腎臓病(CKD)の重大原因には、糖尿病合併症としての腎症があり、これを糖尿病腎症といいます。糖尿病腎症は、高血糖によって腎臓内部の毛細血管が障害されて、腎臓の血液をろ過する機能が低下し、体に必要なアルブミンというたんぱく質が尿中に漏れ出てしまう病気です。

糖尿病腎症の進行について、説明しましょう。

腎症前期[第1期]
高血糖が続くと血液がドロドロになり、毛細血管の内部(糸球体内部)に血栓ができたりして、糸球体高血圧を引き起こすことになります。この状態を「腎症前期(第1期)」と呼びますが、たんぱく尿は検出されません。腎機能も正常なため、この段階での発見は困難です。

早期腎症[第2期]
糸球体は機能の低下を手助けするために頑張って働きますが、放置すると少しずつ腎障害は進み、「早期腎症(第2期)」に突入します。eGFR値(腎臓の働きを示す指標。正式には、推算糸球体ろ過量)は正常ですが、微量アルブミン尿が検出されます。

顕性腎症[第3期]腎不全期[第4期]透析療法期[第5期]
さらに、高血糖の状態が続くと、糸球体障害は促進されます。この時点で厳格な血糖コントロールを行えば進行は食い止められますが、きちんとした治療を行わなければ腎臓は着実に衰えていき、「顕性腎症(第3期)」→「腎不全期(第4期)」→「透析療法期(第5期)」へと至るのです。

透析患者の4割以上が糖尿病腎症

糖尿病腎症がほかの慢性腎臓病よりも恐ろしいのは、人工透析に至る最大原因であるとともに、ほかの原因で透析を始めた人よりも5年生存率が極端に低いからです。

ちなみに、日本透析医学会による「慢性透析患者数の推移・日本透析医学会・わが国の慢性透析療法の現況」によると、慢性腎不全による透析患者数は増加を続けており、2014年12月時点で32万人に達しています。透析が必要になった方の原因として、実に43.5%の人が糖尿病腎症を挙げています。

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【安心】糖尿病腎症は初期なら薬でほぼ100%治る

危険な糖尿病腎症ですが、最近になり症状を改善に導く画期的な薬が見つかりました。それが「テルミサルタン(商品名『ミカルディス』)」という降圧薬。この薬を使えば、軽度の糖尿病腎症なら、ほぼ100%治せることがわかったのです。さらに、以前は回復が絶望的とされていた中等度以上の糖尿病腎症でも、かなりの確率で改善に導くことができます。

s_研究様子.jpgテルミサルタンは、実は世界中で使われてきた一般的な降圧薬ですが、糖尿病腎症を改善させる新たな効果があることが、10数年前に海外で報告されました。
その後、国内でも岡山大学・旭川医科大学・北里大学・東北大学・順天堂大学・埼玉医科大学が共同で、テルミサルタンの効果を検証する研究を行っています。その研究結果は、2008年の循環器の専門学術誌『ハイパーテンション・リサーチ』で発表されています。

研究では、尿アルブミン値が100〜300(単位は㎎/gCr。基準値は30以下)で糖尿病腎症が軽度の患者さんのうち、高血圧の人と正常血圧の人をそれぞれ、①テルミサルタンを1日当たり80ミリグラム投与、②同40ミリグラム投与、③偽薬を投与の3グループに分けました。

そして、52週(約1年)以上にわたって尿アルブミン値の変化を調べたところ、高血圧を伴う人について、①では21.4%、②では12.3%が基準値内に改善していたのです。基準値に届かなくても、糖尿病腎症の改善傾向を示した人を含めれば、改善した人の割合はさらに高くなります。正常血圧の人でも、同様の効果が確認されています。

テルミサルタンは降圧薬なので、高血圧の患者さんには健康保険が適用されます。糖尿病腎症の患者さんは高血圧を併発していることが多いので、ほとんどのケースで保険が適用されるはずです。服用のさいには血液中のカリウムの上昇に要注意ですが、重い副作用の心配はほぼありません。

テルミサルタンで作用が現れにくい場合は、スピロノラクトン(商品名『アルダクトンA』)という降圧薬を追加すれば、同様の作用が得られるはずです。実際、これらの薬を使用して、人工透析を回避できる糖尿病腎症の患者さんが劇的に増えています。

腎症の悪化を防ぐ対策❶「血糖値のコントロール」

ここからは、糖尿病腎症を予防・改善する対策をご紹介します。まず、その第一は当然のことながら高い血糖値を低くコントロールし、できるだけ正常の範囲で安定させることです。病院で指導される糖尿病患者さん向けの食事療法、運動療法をきちんと行えば、確実に作用が現れるでしょう。

加えて、血糖値の安定にはもう一つ注意すべきことがあります。血糖値を安定できていると診断された人すら陥る、意外な落とし穴「血糖スパイク」です。

これまで、血糖値を調べて糖尿病の予防や治療に役立てるには、食前に測る空腹時血糖値や1〜2カ月間の血糖値の推移を示すヘモグロビンA1cが重要視されてきました。

そして現在、この2つともに重要視されるようになったのが、食後の血糖値です。人間が食事をした直後は、血糖値が一時的に上昇し、食後2〜3時間で戻ることが知られています。このとき、インスリン(血糖を調整するホルモン)など血糖のコントロール機能が正常なら、血糖値が140mg/dLを超えることはほとんどありません。

しかし、この食後の血糖値が140mg/dLを超える場合は、要注意です。血糖値の急上昇と急降下が頻繁に起こると、インスリンを作るすい臓の働きがしだいに低下し、糖尿病の原因となります。この現象こそが「血糖スパイク」です。スパイクというのは血糖値をグラフにしたとき、急上昇と急降下でスパイク(釘)のような形になることから、名づけられました。

s_イラスト.jpg血糖値を低くコントロールしながら、血糖スパイクも防ぐ対策ですが、食事の取り方が最も重要になります。特に大切なのが、「食べる順番」です。血糖値の急上昇を抑えるには何よりもまず、野菜やキノコ、海藻類を食べて食物繊維を最初にとる必要があります。また、血糖値を上げる白米やジャガイモ、白パンなどの高糖質食を避けて、玄米や豆類、全粒粉のパンなどに切り替えることも大切です。

糖尿病腎症悪化のもう一つの原因「AGE」の正体

糖尿病腎症になりやすいのは、ふだんから血糖値が高い人や、血糖値が食後に急上昇する血糖スパイクを起こしている人だけではありません。実は、現在は血糖値が落ち着いているものの、過去に長期間、高血糖が続いていたという人も注意が必要です。そこには、血糖値とは別の重大原因が関係しています。

その重大原因が、体内に滞った糖が変質をくり返してできる「AGE」です。AGEは、Advanced Gly-cation Endproductsという英語の頭文字を取ったもので、日本語では「終末糖化産物」と訳されています。血液中に過剰になった糖が変質をくり返した結果、生じる物質の総称で、単に「糖化物質」ともいわれます。

AGEは人体にとって、異物です。それゆえ、血管壁にAGEができると白血球の一種のマクロファージ(貪食細胞)が捕食して排除しようとするのですが、そのさいに炎症が起こります。血管壁でAGEが大量に作られ、炎症が慢性的に続けば、劣化してもろくなった血管がさらに傷んでしまうのです。

そして、この炎症が腎臓で起こると、毛細血管の集合体で血液から老廃物をこし取る糸球体に、小さな穴があきます。その結果、穴から血液中のたんぱく質が漏れ出ていくのが糖尿病腎症です。

AGE生成のしくみ
s_AGE.jpg血液中の過剰な糖が血管のコラーゲン線維に付着し、そのうちのいくつかがアマドリ化合物という物質に変わります。このアマドリ化合物と、別のコラーゲン線維に付着した糖が結合することで生まれるのが「AGE」です。

腎症の悪化を防ぐ対策❷「AGEの少ない食事」

私は、このAGE減らしこそ糖尿病腎症を防ぐ必須条件だと考えています。AGEを減らすには、大前提として、血糖値を下げることが欠かせません。食事に気を遣い、高糖質の食品はさけましょう。

ただ、それだけではAGE減らしは不十分です。AGEは体内で発生するだけではなく、摂取した食品からも体内に吸収されるからです。なお、食品から摂取したAGEで体内に吸収されるのは、全体の約10%です。そのうちの尿からされなかった6〜7%が体内に留まりつづけます。
これは、一見微量に思えるかもしれませんが、AGEには10年以上体内に留まる性質があります。長年、体内に蓄積されることで腎臓の毛細血管をみ、糖尿病腎症の危険が高まるのです。

また、AGEの量は、食品により大きく差があります。高AGE食品の見分け方は非常に簡単で、高温加熱で調理された食品であることが特徴です。焼く・める・揚げるなどの方法で調理すると、食品中のたんぱく質と糖分がメイラード反応(褐色物質を生み出す反応)を起こし、AGE量が爆発的に増加することがわかっています。

そうした食品を避けるのが、AGE減らしの大一歩といえるでしょう。

記事にあるセルフケア情報は安全性に配慮していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して医師にご相談ください。また、効果効能を保証するものではありません。

写真/© Fotolia ©カラダネ

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