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【専門医解説】アルツハイマー予防にレモンの香りを。アロマで認知症は改善する?
「若いころより、においに鈍感になった気がする」
そうした人はいませんか?もちろん、年齢によってにおいの感じ方(特に好き嫌い)は変わりますが、鈍感になるのはよくありません。
というのも、においに鈍感なのは嗅覚(きゅうかく)が衰えた可能性があり、アルツハイマー病の人によく見られるからです。
嗅覚の衰えとアルツハイマー病には一体どのような関係があるのでしょうか。脳神経外科専門医である、阿部メディカルクリニック院長の阿部聡先生にお聞きしました。
アルツハイマー病の人は嗅覚が衰えている
においの情報は伝達スピードが早い
若いころは「デパートの化粧品売り場を歩いただけで香水の強烈なにおいにクラクラした!」という人が、年齢を重ねたら同じ場面でも「においがいつのまにか全く気にならなくなった……」ということがよくあります。
このように、若いころに比べてにおいに鈍感になった人は、もしかしたら脳の衰えが進んでいる可能性があります。
そもそも、香りはにおい分子と呼ばれる物質が鼻腔(びくう。鼻の中のこと)内の粘膜に付着して嗅神経を刺激し、その刺激による電気信号が発生することで脳に伝わります。
そのさい、においの情報は視床(ししょう)を通らないという特徴があります。
視床は、脳のほぼ中央に位置していて、見たり聞いたり味わったりしたときの情報を集約し、これを脳の中枢である大脳皮質に送ります。多くの情報が視床を経由することで、私たちが認識できるのです。
ところが、においの情報は視床を経由することなく、大脳皮質に直接送られ、私たちがその情報を認識します。そのため、においの情報はほかのどんな情報よりも伝達スピードが速く、その刺激も強力だと考えられています
加えて、においの情報は、記憶・思考からホルモン分泌(ぶんぴつ)・自律神経(意志とは無関係に血管や内臓の働きを支配する神経)の調整まで、その働きを担う大脳辺縁系にもしっかりと伝わります。こうしたことから、においに鈍感になったという人は、脳への刺激が少なくなっていると考えられ、脳の衰えが進みやすいとも考えられるのです。
嗅覚が衰えた人ほど認知機能も低下していた
実際に、米国のラッシュ大学医療研究センターの研究グループが行った試験で、嗅覚の衰えが記憶力の低下を招くことを示唆した結果があります。
研究グループは、平均年齢が約80歳の地域住民589人を対象に、レモンやタマネギ、バラなど12種の香りを認識してもらう嗅覚検査を行い、その後、5年間にわたって追跡調査をしました。その間、軽度認知障害(アルツハイマー病の前段階で、MCIという)と診断された177人において、嗅覚機能が衰えている人ほど、認知機能も低下しがちだとわかったのです。
また、12種の香りのうち、よくかぎ分けられなかった人たちは、かぎ分けられた人たちよりも軽度認知障害へ進む確率が高まるとわかったのです。
こうした試験は実はほかにも行われており、アルツハイマー病の人は嗅覚が衰えていて、においに鈍感になっているという結果があります。逆にいうと、においに鈍感になった人は、アルツハイマー病に進みつつある可能性も否定できないのです。
アロマの可能性を確かめた試験。どんな香りがいい?
認知症の人がアロマで改善
アルツハイマー病や、その前段階である軽度認知障害の予防のために、においに敏感でいることが大切です。そのためには好みの香りをよくかぐ習慣を持ってみてはいかがでしょうか。
においをかぐ習慣が脳の若返りに役立つ可能性を示す試験が、鳥取大学医学部の研究チームによって行われています。研究チームは、認知症の患者さんを含む高齢者77人に、芳香浴を実施してもらいました。
芳香浴とは、香り成分を濃縮した精油(エッセンシャルオイル)とディフューザー(芳香拡散器)を使い、部屋に香りを充満させるアロマセラピーです。
具体的にいうと、最初の4週間は芳香浴を実施せずに、次の4週間で芳香浴を実施してもらい、「日常生活動作能力」を調べる評価法(GBSという)を行いました。この評価法は、点数が高いほど認知機能の低下が進んでいて、点数が低くなると認知機能が高く維持されていることを示します。
すると、芳香浴を実施した4週間で85%の人はGBS評価による点数が低くなっており、特に重度アルツハイマー病の患者さんに対しての変化が大きく、例えば夜に興奮して大声を出すといった認知症特有の症状が和らぐ人もいたそうです。
レモンの香りが手軽でおすすめ
では、いったいどんな香りがいいのでしょうか。
鳥取大学医学部の研究チームによる報告では、芳香浴を昼間行うときはローズマリーとレモン、夜行うときは真正ラベンダーとオレンジスイートの香りをかいでもらっていました。
もちろん、こうした報告があった香りをかぐのがいいと思いますが、人によってにおいの受け取り方が違います。だからこそ、自分が心地よく感じる香りがおすすめです。
例えば手軽に入手できて、嫌いな人が少ないという点でいうと、「レモンの香り」はおすすめです。効率的にレモンの香りを取り入れるなら、アロマショップ・雑貨店などでレモンの精油を入手し、ディフューザーで香りを拡散してください。
ここまでしなくても、市販のレモンをくし形に切り、その汁をティッシュペーパーなどに数滴染み込ませて、机の上などに置いておくのも1つの手です。30分くらいでにおいがなくなってしまいますが、そのたびごとにレモン汁を染み込ませればいいでしょう。
とはいえ、レモンの香りだけで認知症の誰もが改善することはありません。あくまでも予防の一環として利用する、知識の一つとして知っておいていただくという姿勢が重要です。
もちろん、物忘れやアルツハイマー病の疑いがある人は、必ず専門医に診てもらいましょう。規則正しい食事と運動に加えて、香りによる脳の刺激も試してみてください。
記事にあるセルフケアは安全性に配慮していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して医師にご相談ください。また、効果効能を保証するものではありません。
写真/© Fotolia ©カラダネ
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