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【ひざ痛の新事実】軟骨成分は運動で増える!専門医実証の「ソフト屈伸」で痛みが和らぐ
40歳〜50歳と比較的若い段階から膝痛に悩む人がいる一方で、80歳〜90歳の高齢でも膝痛とは無縁で、杖も使わずにスタスタと歩いている人はたくさんいます。
この違いはいったいなんなのでしょうか?整形外科医で千葉大学大学院医学研究院特任教授の渡辺淳也先生が変形性膝関節症の治療経験と最新の画像検査などを駆使した研究の末に、その違いとひざ痛を改善する秘訣を発見しました。
その違いと秘訣を読み解くキーワードとなるのが、ひざの関節軟骨を構成する成分の一つ「プロテオグリカン」。まずは、プロテオグリカンを増やす「ソフト屈伸」のやり方から解説いただきました。
もちろん、ひざ痛の人は整形外科の専門医の治療を必ず受けてください。そのうえで、セルフケアを試してみてください。
ソフト屈伸のやり方
ソフト屈伸は、その名のとおり、立った姿勢のまま、ソフトな(優しい)力加減で軽く膝を曲げ伸ばしすることをくり返す簡単な運動。実際に、ひざ痛に悩んで病院を訪れる患者さんに対して私が主に指導しているのが、ソフト屈伸が簡単に実現できる「小分け歩き」です。
【ソフト屈伸】小分け歩きのやり方
太ももを高く上げ、大股で歩くウォーキングを1日10回、1日3分行う。決して速く歩く必要はない。朝・昼・晩に各1回ずつ歩くのが理想だが、自分のリズムなどに合わせて、いつ行ってもかまわない
【ポイント】
- 「太もも高く上げて歩く」「大股で歩く」の2点がポイント
- 1日10分、1日3回が目標だが、つらい人は1日1回から始めてもかまわない。慣れてきたら少しずつ時間や回数を増やす
- 決して無理はせず、痛みが出たらすぐに休む
歩くのが困難な方向けのやり方
痛みで歩くのがどうしてもつらい人は、立ってその場で両足を軽く曲げ伸ばし(ソフト屈伸)したり、イスに座ってひざ痛がある方の足をゆらすように曲げ伸ばしを行う
ひざ痛患者はプロテオグリカンが減っている
プロテオグリカンは、ひざの関節軟骨を構成する成分の一つです。まずは、プロテオグリカンの理解を得るために、ひざ関節の構造について説明します。
ひざの構造
ひざ関節を構成する主な骨は、上下に連なる太ももの大腿骨(だいたいこつ)と、すねの脛骨(けいこつ)です。脛骨の外側には腓骨(ひこつ)があり、ひざの前面には俗にお皿と呼ばれる膝蓋骨(しつがいこつ)があります。
これらの骨には、靭帯(骨と骨をつなぐ丈夫な線維組織)や腱(骨と筋肉をつなぐ線維組織)がつながっており、関節の安定やひざの曲げ伸ばし動作にかかわります。
大腿骨と脛骨が接する部分の表面は関節軟骨で覆われ、その間には半月板という軟骨があります。関節軟骨と半月板はともにクッションの役割を担い、ひざにかかる負荷や衝撃を吸収します。また、表面が非常に滑らかな関節軟骨は、ひざのスムーズな曲げ伸ばしを助けています。
ひざ関節全体は関節包という袋で包まれ、内側は関節液で満たされています。関節液はひざ関節の潤滑剤として働くほか、関節軟骨や半月板に栄養を供給しています。
関節のクッション機能の要=プロテオグリカン
ひざ痛を防ぐのに大切な関節軟骨のクッション機能ですが、中でも特に重要な役割を担っているのが、水分を引きつけて関節軟骨の内部に蓄える働きのあるプロテオグリカンです。
プロテオグリカンが関節軟骨の中で、どのように存在し、機能しているのかについてはかなり専門的になるので省略します。例えを用いて簡単に説明すると、プロテオグリカンは、水をたっぷり含んだスポンジのようなものと考えてください。
そこへ屈伸や歩行などの衝撃が加わると、押されたスポンジから水が抜けていくように、プロテオグリカンに蓄えられていた水分が関節軟骨の外に押し出されます。このとき、ひざに加わる力が水分の移動する力に変換されることで、衝撃が吸収されるのです。
衝撃を受け止めて関節軟骨から押し出された水分は、しばらくすると軟骨内に戻り、プロテオグリカンによって再び軟骨内部に蓄えられます。こうした水分の出し入れをくり返すことで、日常動作で加わる膝への衝撃を和らげているのがプロテオグリカンです。
新MRI検査でわかったプロテオグリカンの重要性
プロテオグリカンの存在自体は、1970年代とかなり前から知られていました。ただ最近まで、検査機器の性能的な限界から、実際のその存在をはっきり確認するのが難しい、という状況が続いていました。それが、ここ数年でMRIが技術的な進歩を遂げ、プロテオグリカンが視覚的に調べられるようになり、変形性膝関節症の研究が飛躍的に進むことになったのです。
上は、MRIマッピング画像です。青の領域ではプロテオグリカンが多く、赤・黄の領域では減っていることを示しています。ひざ痛を患う人はそうでない人に比べて、膝のプロテオグリカンの量が減少していることも判明しました。
プロテオグリカン検査はひざ痛の早期発見に役立つ
プロテオグリカンの量とひざ痛との関係が明らかになったことで、MRIを用いてプロテオグリカンの量を測るこうした検査、いわば「プロテオグリカン検査」は、ひざ痛の重症度が視覚的に測れるばかりではありません。
この検査を行うことで、従来は難しかった変形性膝関節症の早期発見が可能になりました。また、今は問題がなくても、将来的に膝痛が起こる可能性がある人を見つけ、発症の予防を促せるようにもなったのです。
実際、当院(東千葉メディカルセンター)を訪れたひざ痛の患者さんのうち、関節軟骨の変性が症状に関与している可能性がある人には、この検査を受けてもらっています。検査方法は通常のMRIとほぼ同じで、造影剤も用いません。検査にかかる時間は30〜40分程度。検査には健康保険が適用され、高額な費用も必要ありません。
プロテオグリカンが減る【2大原因】
プロテオグリカンはさまざまな原因によって減少してしまうことがわかっています。
プロテオグリカンの減少を招く要因の一つは老化です。年とともに体のあちこちで老化が進みますが、ひざの関節軟骨も同じです。40歳ころを境にしてプロテオグリカンは減少しやすくなり、関節軟骨の変性が徐々に進むことがわかっています。
女性であることもプロテオグリカンが減りやすい要因としてあげられます。これには女性ホルモンの一つであるエストロゲンが大きく関係しているといわれています。エストロゲンには関節軟骨を保護する働きがあります。しかし、閉経で分泌量が減ると関節軟骨は傷みやすくなり、軟骨細胞によるプロテオグリカンの生産も滞ります。
とはいえ、老化や性別といった要因は自分ではどうすることもできません。これらはプロテオグリカンの減少を招く主な原因であるのは間違いありませんが、自分で解決できる原因こそひざ痛の患者さんにとってはより重要です。
そういう意味で、プロテオグリカンを減らす原因として特に重視すべき2大原因が「肥満」と「ひざをかばいすぎる生活」です。
原因❶ 肥満
肥満では、ひざへの負荷が増え、プロテオグリカンが過剰に壊れやすくなります。
ひざの関節軟骨のプロテオグリカンは、歩いたりひざを曲げ伸ばししたりといった刺激によって、日常的に適度な量が壊されています。その代わりに軟骨細胞が壊れた分を新たに作り出すことで、新陳代謝(古いものと新しいものの入れ替わり)をくり返し、常に新鮮なプロテオグリカンを補充しているのです。
しかし、肥満でひざへの負荷が増えると、プロテオグリカンの壊れる量が、新たに作られる量を上回ります。結果として、プロテオグリカンの生産が追いつかなくなり、その量も減っていくのです。目安として、BMI(「体重(キロ)÷身長(メートル)の2乗」で算出する肥満指数で、25を超えると肥満)が30以上の人は、プロテオグリカンの減少を疑うべきでしょう。
原因❷ ひざをかばいすぎる生活
ひざを動かさないことが習慣化してくると、ひざ周辺を流れる血流が低下します。ひざの関節軟骨に栄養を送るのは血液ではなく、関節全体を包む関節包を満たす関節液です。ただ、関節液は関節包の内側にある滑膜から分泌されるため、ひざ周辺の血流が滞れば滑膜に栄養が送られなくなり、結果として関節液の生産は衰え、関節軟骨が栄養不足に陥ります。そうなれば、やはりプロテオグリカンは減少しやすくなります。
また、ひざの曲げ伸ばしをしない生活ではひざへの刺激が乏しくなり、前述したプロテオグリカンの適度な破壊が起こりません。したがって、プロテオグリカンが新たに作られる新陳代謝も滞り、その量は減っていきます。
こうした新陳代謝の低下が起こるとプロテオグリカンの生産機能も衰えるので、いざひざを動かしはじめてプロテオグリカンが壊れても、すぐに補充できません。結果として、プロテオグリカンが不足した状態を生み出し、ひざを傷めやすくなります。
ソフト屈伸【小分け歩き】の作用
ソフト屈伸で膝の曲げ伸ばしをすると以下の3つの働きが得られ、その結果、ひざ痛の改善につながります。
- ひざの関節軟骨が適度に刺激され、プロテオグリカンの新陳代謝が向上し、新たなプロテオグリカンが生産される
- ひざ周辺の血流が促され、関節軟骨に栄養や酸素を送る関節液の生産が盛んになる
- 関節軟骨が関節液を取り込む「スポンジ機能」がよく働き、プロテオグリカンを作る軟骨細胞が活性化する
こうした働きが得られるのは、軽いソフトな曲げ伸ばしをしているからです。深い曲げ伸ばしではひざに強い負担がかかり、関節軟骨を傷める危険があるからです。負荷の強い運動を行うと、反対にプロテオグリカンが減少することも指摘されています。
ソフト屈伸を行うさいは腰を少し落とす程度の曲げ方にとどめ、ひざを90度以上の角度には曲げないようにしてください。
「小分け歩き」をすすめる理由
小分け歩きは、ソフト屈伸と同様のしくみでプロテオグリカンが増やせるうえ、プロテオグリカンを減らす原因の「肥満」を改善したり、ひざを支える太ももの筋肉を強めたりする働きも得られる運動です。
最後に、ここまでくわしく「ひざ痛克服におけるプロテオグリカン」の重要性から、プロテオグリカン増やす方法まで解説してきました。
しかし、何より大切なのはひざ痛を克服するために運動を継続することです。改善のためには、少なくとも2〜3カ月は継続してください。
記事にあるセルフケア情報は安全性に配慮していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して医師にご相談ください。また、効果効能を保証するものではありません。
写真/© Fotolia ©カラダネ
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