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残便感が強い【直腸性便秘】は直腸瘤が原因のことも。便が少量で便秘薬も効きにくい
便秘というと「若い女性に多い」印象をお持ちの人が多いようですが、実際は年齢を重ねた中高年になると便秘で悩む人が増えるそうです。
特に増えてくるのが、便意があるのに少量しか出ない、出ても残便感があるといった症状が特徴の直腸性便秘です。
吉祥院病院医師で、便秘の専門家でもいらっしゃる倉田正先生に解説していただきました。
便秘を軽視せずに、医師の治療を受けることもお忘れなく。
直腸瘤とは?直腸瘤が原因の「直腸性便秘」の症状とは?
・肛門の手前まで便がきているのに出ない
・出ても少量
・強い便意があるのに、いきんでも出ない(腟と肛門の間がふくれる)
・便が出ても、まだ便が残っている気がする(残便感)
・便秘薬が効きにくい
私は、以上のような症状で長年悩んできた患者さんをおおぜい診てきました。
これらは、直腸にたまった便で肛門がブロックされ、強い残便感がある直腸性便秘で現れる典型的な症状です。直腸性便秘は、肛門の手前にある直腸の壁が腟の方に飛び出して、ポケット状に膨らんだ「直腸瘤」(ちょくちょうりゅう)というくぼみができることで起こります(下の図を参照)。
この部分に便が引っかかることで便秘になるのです。
直腸瘤は直腸の壁が押され腟側に膨らんだ状態
直腸瘤ができて直腸性便秘になると、排便後も強い残便感がおさまらず、これに加えて腟や会陰部(外陰部と肛門の間の部分)に違和感を覚えたり、下腹部が重苦しくなったりします。
腟に指を入れて直腸(肛門)のほうへ押すと排便しやすくなる人は、直腸瘤ができている疑いが非常に強いといえます。
直腸瘤は、女性だけに起こるのが特徴です。
私は、肛門内科の医師として延べ10万人以上の肛門を触診してきましたが、大きさに程度の差はあれ、半数以上の女性に直腸瘤や浅いくぼみがありました。
いきむ女性は直腸瘤ができやすい
では、なぜ直腸瘤ができるでしょうか。
私たちが飲んだり食べたりしたものは、食道から胃、十二指腸、小腸を経て大腸に送られます。大腸は、上行結腸から横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸へと続き、最後は肛門へとつながっています。便が大腸の最終部分である直腸まで運ばれると、便が直腸を圧迫します。
すると、直腸やS状結腸は収縮し、肛門の周囲の筋肉である肛門括約筋がゆるみます。このときにいきみが加わると、肛門から便が排泄されます。
このようにスムーズに排便できているうちはいいのですが、生活習慣の乱れや食事の偏りなどが原因で硬い便ができてしまい、それを無理やり肛門から押し出そうとしていきむと、直腸がまわりに何もない空間、つまり腟の方へ押し出されます。
強くいきむと腹圧(おなかの中の圧力)が高くなります。女性の場合は、骨盤の形が横に広がっているため腹圧が分散されやすく、排便のときに強くいきむと腹圧が下腹部の前方(腟の方向)にかかるようになります。
こうした力がかかりつづけると、便に押された直腸の壁がのばされ、腟の方向へポケット状に膨らんでいくのです。
骨盤の形状以外にも、排便時に過度に前かがみ姿勢を取ると、直腸にかかる力が腟側に向かいやすいという構造上の特徴もあって、女性は直腸瘤になりやすいのです。
男性の場合は、骨盤の形が下向きの逆三角形になっているため、腹圧が肛門の方に向かい、直腸を変形させるような力はほとんどかかりません。さらに、直腸の前方(おなか側)には前立腺があるため、直腸瘤ができにくい構造といえます。ただし、前立腺を摘出した人は、その方向に直腸瘤に似たくぼみができることはあります。
食物繊維や運動では改善しない
直腸瘤ができても、ポケット状の袋が小さければ、便が引っかからずに、スムーズに排便できます。ところが、排便時にいきみすぎて下腹の前方に腹圧をかけつづけると、袋がどんどん大きくなってしまいます。
そこへ、硬い便(水分や油分が少ない便)が通ると、便の先端が袋に入り込んだり、ひっかかったりしてしまい、便が出にくくなって直腸性便秘を招くのです。
直腸性便秘のやっかいなところは、通常の便秘改善法があまり役に立たないこと。
便秘を改善するには、野菜などの食物繊維を十分にとって便のカサを増やし、腸の蠕動運動(内容物を先送りする働き)を促すことが重要とされています。ところが、直腸性便秘で直腸瘤という直腸の形状が問題の場合は、食物繊維をたくさんとっても症状の改善は望めません。
また、便秘改善に運動をすすめられることもあります。運動は、大腸に刺激を与えたり、便を外に押し出す力を強めたりするのに役立ちますが、直腸性便秘では便が直腸瘤に引っかかって肛門をふさいでいるので、腸が動いてもなかなか便が出ないのです。
では、直腸性便秘を改善するにはどうすればいいのでしょうか。実は、排便法を少し変えるのがオススメです。やり方簡単で、両手でお尻を引き上げながら排便するだけ。くわしくは、下記の関連記事をご覧ください。
記事にあるセルフケア情報は安全性に配慮していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して医師にご相談ください。また、効果効能を保証するものではありません。
写真/©カラダネ
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