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【感音難聴の治し方】補聴器頼みで改善しない人は人工内耳など難聴の手術も要検討

解説 川越耳科学クリニック院長
坂田英明

年齢を重ねることで耳が遠くなった人は、難聴の中でも「感音難聴(かんおんなんちょう)」である可能性が高いそうです。
感音難聴とはいったい何?原因は?対策は?……難聴の専門医である坂田先生にお話を聞ききました。

耳が聞こえにくい、耳が遠いといった難聴の症状がある人は、まずは病院で治療を受けることを忘れずにお願いします。

難聴のタイプは「聞こえない原因がどこにあるか」で分かれる

いくつか種類がある難聴の中でも、特に患者数が多い難聴、それが感音難聴です。
難聴の種類は、通常「音が聞こえない原因がどこにあるか」で分かれます。

s_耳の構造.jpg

感音難聴は、主に音の振動を電気信号に変換し脳へと伝える内耳(ないじ)から、聴神経、脳にかけての障害が原因で起こる難聴のこと。
それに対して、
外耳(がいじ)から中耳(ちゅうじ)にかけて障害が起こり、聞こえにくくなっている難聴は「伝音(でんおん)難聴」といいます。

さらに、伝音難聴と感音難聴が合併した「混合性難聴」、心因性が原因の「機能性難聴」、生まれつき耳が聞こえない遺伝性の「先天性難聴」などがあります。

加齢性難聴は感音難聴の一種

記事の冒頭にもあるように、年齢を重ねることで「耳が遠くなった」「聞こえが悪くなった」というタイプの難聴は「加齢性(老人性)難聴」と呼ばれ、感音難聴の一種です。

現在、私たちの国は世界に先がけて超高齢社会(65歳以上が人口の21%以上を占める社会)に突入しており、加齢性難聴にかかる人が激増しています。具体的には1000〜1500万人以上が罹患(病気にかかること)している可能性があると推定されています愛知医科大学耳鼻咽喉科 内田育恵特任准教授らの研究ほか)

難聴コラム①加齢性難聴以外にもある感音難聴とは?
名称が知られているものでは、何の前ぶれもなく突然耳が聞こえなくなる「突発性難聴」が筆頭です。そのほか、大きな音の影響で内耳が傷害される「音響外傷」、内耳のむくみが原因で難聴が起こる「メニエール病」、聴神経にがんができる「聴神経腫瘍(しゅよう)」、薬(抗生剤・抗がん剤・抗てんかん剤など)の副作用で内耳が侵されて聴覚障害が起こる「薬物中毒」も、感音難聴に分類されます。

感音難聴は改善しにくい。その理由とは?

感音難聴は、治りにくい難聴の一つです。なぜなら、内耳がとても精密な構造の器官のため、傷害されると簡単には回復しないのです。できるだけ簡単に説明しましょう。

内耳は、耳石器(じせきき)・三半規管(さんはんきかん)・蝸牛(かぎゅう)の3つのパートから構成されています。このうち、耳石器・三半規管は平衡感覚をつかさどっており、蝸牛は音の振動を電気信号に変換しています。

蝸牛は文字どおりカタツムリ(蝸牛)に似た形の器官で、その中には約1万3500個もの有毛細胞があり、リンパ液で満たされています。そして、音の振動が蝸牛に伝わると、中のリンパ液が揺れて有毛細胞が揺らいだり、こすれたりします。その摩擦によって、音を伝える電気信号が発生するというわけです。

有毛細胞の揺らぎには一定のパターンがあり、それによって聞こえ方が変化します。ところが、内耳が何らかの原因で傷害を受けて有毛細胞が倒れたり、からんだりすると、正しいパターンで揺らぎがなくなるばかりか摩擦による電気信号を発生できずに、脳に音の情報が正しく伝わらなくなります。
こうした内耳の異常は、現在の医学では容易には改善できないのです。

感音難聴には、落ちた聴力を補う「補聴器」「人工内耳」がすすめられる

感音難聴に対して病院はどのような治療が行われるのでしょうか。

一般的に、難聴の治療では①薬物治療、②補聴器の2つが基本です。
感音難聴は、薬物治療だけでは聴力が改善することは多くありません。

例外的に薬物治療で改善が期待できる感音難聴は、発症から2週間以内の突発性難聴です。一般的にはステロイド剤の内服や点滴です。特に鼓膜(こまく)から中耳腔(ちゅうじくう)にステロイド薬(副腎皮質ホルモン)を注射する「中耳腔注入療法」という方法もあります。

それ以外の感音難聴は、補聴器を装用したり人工内耳手術を受けたりして、落ちた聴力を補うことが標準的な治療になります。とりわけ、手軽に始められて一定の効果が得られる補聴器の装用は、すべての感音難聴の患者さんにすすめられます。

補聴器の適用範囲とは

補聴器を装用するか人工内耳手術を受けるかは、耳の聞こえ具合(難聴の症状が重いか軽いか)で変わってきます。
s_Hearing impaired cochlear implant (1).jpg(1)軽度難聴(25〜50dB未満。ささやき声が聞き取りにくい)
(2)中等度難聴(50〜70dB未満。大きな声なら聞き取れる)
(3)高度難聴(70〜90dB未満。耳もとではっきりと話してもらえれば聞き取れる)
(4)重度難聴(90dB以上。電話の呼び出し音が聞こえない)
※dBはデシベル。音量の単位。

上記のうち、一般的には補聴器は軽度や中等度から高度難聴の患者さんまで使われます。
補聴器は医師や言語聴覚士によって管理・調整して使う必要がある、高度な医療機器です。

補聴器の装用で重要なことは、音の聞こえぐあいを調整する「フィッティング」です。難聴は人によって千差万別で、「会話の子音が聞こえない」「人ごみの中だと相手の声がかき消される」「離れた場所にいる相手の声を聞き取りにくい」「声や音が部屋の中で反響する」など、聞こえの悪さは人によって微妙に変わります。

そこで、患者さんごとに補聴器をフィッティングする必要があるのです。フィッティングは、最適な聞こえにたどり着くまで視聴しながら何度も行う必要があり、装用後も聞こえの変化に合わせて微調整を続けなければなりません。

難聴コラム②補聴器の最適なフィッティングとは
フィッティングされた補聴器を装用すると、周囲の音や人の声がはっきりとクリアに聞こえるようになり、会話の不自由が大幅に改善されます。特に、老人性難聴の人は、会話の子音(主にさ行・か行・た行)が聞き取りやすくなるので大変便利です。
加齢性難聴になると、軽度でも会話の子音が聞き取りにくくなり、人とコミュニケーションを取ることをさけるようになります。そのように、周囲の人と疎遠になったらウツ病や認知症を招きかねません。ですから、加齢性難聴と診断された人は、早めに補聴器を装用することが肝心です。
また、最近では補聴器に似た集音器のような器械が通販などで売られていますが、あれは補聴器とは全く異なる雑貨です。補聴器と間違えて購入しないようにしてください。

補聴器で改善しないなら人工内耳を

両耳とも高度難聴、あるいは重度難聴の患者さんは、補聴器頼みでは改善しない人もいます。そのため、近年、急速に進歩している人工内耳の手術を検討することになります。
人工内耳は、体内装置(インプラント)を埋め込んで内耳に電極をつなぎ、体外装置(サウンドプロセッサ)で拾った周囲の音を電気信号に変換して内耳に送る人工臓器です。
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日本耳鼻咽喉科学会の定めた「成人人工内耳適応基準(2017)」によると、成人の場合、人工内耳の適応になるのは次のいずれかに当てはまる人です。
●裸耳での聴力検査で平均聴力レベルが90dB以上の重度の感音難聴の人
●平均聴力レベルが70dB以上90dB未満。なおかつ適切な補聴器装用を行ったうえで、最高語音明瞭度(語音明瞭度は言葉の聞き取りやすさの指標。60%未満で日常会話が困難)が50%以下の高度の感音難聴

簡単にいえば、重度難聴の人と、高度難聴で語音明瞭度の低い人が、人工内耳の適応になります(成人人工内耳適応基準は3年おきに見直される予定)。
s_Hearing impaired cochlear implant4.jpg 
人工内耳の歴史について少し解説します。
人工内耳の誕生は、1960年代に遡ります。米国で発表された「重度難聴の人の耳に電気刺激を与えると聴力が回復する」という論文をヒントに、オーストラリアの耳鼻咽喉科医、グレアム・クラーク博士がメルボルン大学でチームメンバーと共に研究を行い、聴覚装置の原型を開発。そして、1978年に世界で初めて人工内耳の手術を成功させました。

日本では、1985年に最初の人工内耳手術が行われました。1994年から健康保険の適用となり、高額療養費制度、心身障害者(児)医療費助成も申請できるようになり、装用者が増えています。
これまでの人工内耳手術の実施件数は延べ1万件以上。現在、全国の主要な病院や大学病院で年間1000件以上が実施されています。

難聴コラム③人工内耳のサウンドプロセッサが進化
近年、人工内耳の分野で急速に進化しているのは、体内のインプラントに音の電気信号を送信する体外のサウンドプロセッサです。
従来のサウンドプロセッサでは、騒がしい環境で話し声が聞こえなったり、屋外で風切り音がうるさかったり、音楽が快適に聴こえなかったりするものもあったため、状況に合わせて登録したマッピングのプログラムを切り替える必要がありました。最近は、利用シーンを機械が感知し、自動的に最適な聞こえ方に切り替える新型サウンドプロセッサが登場しています。

ほかにも、サウンドプロセッサを水から守るアクセサリも登場し、シャワーやウォータースポーツが楽しめる環境も整ってきました。さらに、ワイヤレスで接続するサウンドプロセッサも登場しています。これは、サウンドプロセッサに音声を直接的に送信するので、騒がしい場所で電話をしたり、にぎやかな教室で教師の話を明瞭に聞いたりといったことができるようになるという画期的なものです。

音のある生活を失わない努力を

人工内耳は、装用者が聴力を回復するだけでなく、人生を楽しむことにも大きな助けになる人工臓器といえるでしょう。
感音難聴になる可能性は、年齢を重ねれば誰にもあります。大切なのは、難聴になってもそれ以上、聞こえなくならないように対策を怠らないこと。
必ず耳鼻咽喉科の専門医の治療を受けて、音のある生活を失わないようにしてください。

記事にあるセルフケア情報は安全性に配慮していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して医師にご相談ください。また、効果効能を保証するものではありません。

写真/© Fotolia ©カラダネ

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