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【難聴の治療は新時代へ】子供にも大人にも人工内耳の装用が身近に〜早期治療が肝心です〜
人生100年時代の今、大事な感覚器である「耳」の不調や病気に対する医療が進歩しています。
特に「聞こえが悪い」「言葉が聞きとりにくくなった」といった難聴は、積極的な早期発見と早期治療が行われており、手術で聴力を回復させる人も増えています。
この背景には、適切な治療をしないと子供なら言語の発達に影響が出たり、高齢者なら認知症のリスクを高めたりするとわかってきたため。
この記事では、子供と大人で難聴に対して適切な治療をしない場合のリスクや、進歩を続ける人工内耳の手術について、また記事後半では新しい人工内耳の機能についてもお伝えします!
なお、難聴の治療や人工内耳については一番下の関連記事もご覧ください。
【子供の難聴】聴く力は日常のコミュニケーションにかかわる
みなさんの中には、子供や孫の難聴を心配されている方も多いと思います。
子供の難聴は、近年は早期発見できるしくみが作られ、以前よりも早くから治療を始める環境が整ってきました。これは、出生後1ヵ月以内に新生児聴覚スクリーニング検査を実施する産婦人科や新生児科が増えているため。
生まれたばかりの赤ちゃんに検査音を聞かせて脳波を計り、音への反応の有無を調べる検査です。
この検査で生まれつき聴力に障害がある「先天性難聴」の疑いがある場合、耳鼻咽喉科でさらに精密な検査をします。その後、診断が確定した場合、まずは補聴器の装用を推奨され、その後に補聴器では十分聞こえないと判断されれば、次のステップとして人工内耳の装用をすすめられる場合が多いようです。
人工内耳とは、簡単にいうと体の外で集めた「音」を耳の奥に手術で埋め込んだ体内装置に伝え、最終的に電気信号に変えて脳に届ける人工臓器のこと。
カラダネでは人工内耳について何度か専門医に解説していただいていますが、装用後にきちんと音の聴こえを調整すれば、患者さんの聞こえの向上をサポートする医療機器です。 人工内耳については、日本では1985年に初めて手術が行われて以降すでに約1万人以上が手術を受けています。子供への人工内耳の適応基準は何度か見直され、そのたびに対象は拡がっています。
子供さんにとっての「聞こえる」は、脳への刺激そのもの。長い人生を歩むうえで必要なコミュニケーション能力の発達には欠かせません。
先天性難聴の子供には、言葉の刺激を与える療育(障害を持つ子供の自立を目的に実施する医療と保育)が行われますが、生後6ヵ月以内に療育を始めれば小学校へと入学する時点で良好なコミュニケーション能力を得られる可能性が3倍も高いと報告されているそうです。
人工内耳は手術によって体内にインプラントを埋め込みますが、インプラントは基本的には一度手術をすれば、ずっと使いつづけることができるとされます。
最近では両耳が難聴の子供は、一度に両耳の人工内耳手術を受ける場合も多いそうです。両耳に装用して、聞こえをきちんと調整すれば「音がどこから聞こえているか(方向感)」や「言葉の聞き取りやすさ」が高まるとされています。
人工内耳手術が以前よりも身近になったことで、先天的に聴覚障害があっても早くから音のある生活に慣れると、言語の獲得の可能性が高まるとされます。
【大人の難聴】放置すると認知症になる危険が高まる
大人の難聴は、子供の難聴とは事情が少し違います。大人の場合は少しずつ聞きとりづらくなる場合が多く、自分で気付きにくいうえに気づいても「年齢のせい」とあきらめてしまわれがちです。
でも、最近の研究では難聴は早期から積極的に治療すべきという考えが時代の流れになりつつあります。
これは、難聴を治療しないことによるリスクがあまりにも大きいとわかったこと。
難聴は適切な治療が遅くなることで、聴力がさらに衰えたり、認知症やうつになるリスクが高まるそうです。これは、外界から入る音の刺激が乏しくなると、常に音の情報を処理している脳への刺激が減るからと考えられています。
ほかにも、難聴になると交通事故や転倒によるケガを負いやすい点はよく指摘されますが、これはみなさんも納得されるのではないでしょうか。
大人の難聴の治療環境も急速に整ってきています。特に人工内耳については、1994年に保険適用されて以来、手術を受ける人が増えており、2017年には対象者の基準が拡がりました。
難聴が進行した人は、耳鼻科専門医の治療方針にしたがって、大半の人は最初は補聴器を装用します。補聴器は、音の聞こえ具合を調整する「フィッティング」を何度もくりかえし、より良い聞こえ方に近づけていきます。
ところが、補聴器を使っても聞きとりにくい人や、難聴の症状がどんどん悪くなる人がいるのも事実です。
以上のように、子供も大人も難聴の治療環境はここ数年で進歩していることがおわかりいただけたでしょうか。
人工内耳がスマホとつながる時代になった
難聴については治療環境に加えて、人工内耳の機器そのものも進化し身近になりつつあります。
人工内耳は2つの機器から構成され、体内装置(インプラント)と体外装置(サウンドプロセッサ)がありますが、このサウンドプロセッサの機能が驚くべき進化をしているのです。
注目はスマートフォン(以下、スマホ)につながるようになったこと。
スマホは、今や日常生活に欠かせないものになりました。インターネットで調べ物をしたり、ビデオを観たりできますよね。今はいろいろなものがスマホとつながって、操作できる時代です。
人工内耳の新しいサウンドプロセッサは、iPhoneやAndroid携帯に専用アプリを入れることでワイヤレスでつながり、操作性や通話機能を著しく向上させています。
さらに、サウンドプロセッサの動作状態や音量、電池残量のほか、過去1週間に音声を感知した時間がスマホ画面で確認できます。もしもサウンドプロセッサをなくした場合も、なくした位置が画面に表示されて、探すことができます。人工内耳はスマホとの連動でより身近に、より便利に進化しているのです。
電話がかかってくると、スマホからの音声がサウンドプロセッサへ直接伝わるため、周囲の雑音にまぎらわされることなく音声を聞き取ることだでき、快適に通話をすることができます。
また、電話だけでなく、音楽、インターネット動画、SNSなどスマホから出力される音声のすべてが、サウンドプロセッサにワイヤレスで送信され(もちろんイヤホンも不要で)、スマホからの音声をより明瞭に聞き取ることができます。
聞こえのシーン別に最適な音をサウンドプロセッサが選んでくれる
もう一つ、サウンドプロセッサの注目すべき機能として、音声を自動で最適化する「スキャン機能」も登場しています。
従来のサウンドプロセッサは、騒がしい場所と静かな場所で音の聞こえ方が違いました。
例えば、人工内耳を装用している人は、今いる場所に合わせて音量を細かく調節したり、設定されたプログラムを切り替えたりする必要がありました。
人工内耳は、難聴の人が使う医療機器ですから、「聞きたい音がきちんと聞こえる」ことがとても大切です。
スキャン機能があるサウンドプロセッサは、人工内耳の装用者が自分で切り替えをしなかったとしても、自動で聞きたい音を検知し、聞こえのよさが保たれるそうです。
また、話をしている人の声のみをクリアにして聞こえをよくする機能もあります。
ほかにも、サウンドプロセッサを水から守るアクセサリも登場し、シャワーやウォータースポーツが楽しめる環境も整いつつあります。もちろん本体の小型化や軽量化も進んでおり、電池寿命も延びるといった使い勝手も格段に向上しています。
実際に人工内耳を装用した方の体験談もありますので、下記の関連記事をご覧ください。
記事にあるセルフケア情報は安全性に配慮していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して医師にご相談ください。また、効果効能を保証するものではありません。
写真/© Fotolia ©カラダネ
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